リール制作におけるワークフロー

音楽の重要性と役割




何を伝えるかが決まったら撮る前に”ディグる”

今村茶園のリール制作は、撮影からではなく楽曲を探すところからスタートします。ジャズやソウルミュージック、 ファンクをはじめ、1960〜80年代の楽曲を中心に探していきました。また、曲を探しながら「今村茶園っぽい」というものがあればプレイリストにストックし、楽曲の意味やバックグラウンドを調べつつ理解を深めています。

また、今村茶園の場合は何を撮影するかを事前にほとんど決めませんでした。本来ならば、「こういう映像を作ってほしい」というクライアントの要望を汲みますが、今回はお茶造りの現場に行った際に「今の感じいいな」と自分の感情が動いたときのみ撮影を行なっています。また、期間中は先のプレイリストを常に聴きながら楽曲を自分の体に馴染ませていました。そうすることで、撮影中に楽曲が流れていなくとも頭の中で曲が思い浮かび、カメラの動きやシーンとも自然に合っていきます。

編集段階では、プレイリストの中から自分の伝えたいことやコンセプトと合いそうな楽曲を選んでいき、綺麗な映像を見せるというより、何を伝えるかを意識していました。また、当時のジャケットデザインやフォント、その時代の映画やCMのテロップが出てくるタイミングやカットのタイミングなども参考にしています。

公開については、本来クライアントに完成映像の確認をお願いしますが、今村茶園の場合は今村さんたちに常に第三者目線でいてもらうため、あえて事前確認はせずInstagramへの公開をしています。これはあくまでも本当の信頼関係があってこそできる異例の方法だと思います。



撮影機材

カメラ

ソニー α7S Ⅲ



レンズ

ソニー FE 35mm F1.4 GM、NiSi TRUE COLOR ND VARIO +、NiSi Black Mist 1/4



ジンバル

DJI RS 4 Pro



撮影機材は、DJI RS 4 Proにソニーα7S III+35mm F1.4 GMレンズを載せ、NiSiのNDフィルター、Black Mistを装着。iPhoneで撮影することもある。撮影時はこれに加えてiPhoneをモニターとしても使用しており、DJIの映像伝送システムRavenEyeを使ってカメラからワイヤレスで映像を飛ばしている。




横位置撮影におけるメリット

撮影は基本的に横位置で行い、後々縦型にトリミングして使用する場合が多い。あらかじめ横長に撮影しておくことで、見せたくない部分をカットすることができ、また違う部分をトリミングすることで全く異なるシーンを作ることも可能になる。





カラーグレーディング

シンプルなグレーディングにより時間短縮を実現

基本的にHLG(ハイブリッド・ログ・ガンマ)で撮影しているため、生の映像でもかなり綺麗な品質なんですが、そこからカラーボードで少しだけ中間色を上げています。また、Final Cut Proの「ライトとカラーの補正」機能を使えば、ある程度自動でカラー調整をしてくれるので、あとはシャドーを若干暗くしたりなど微調整を加えているだけです。さらに、「Cinematic LUT」「Nostalgic_green」という2種類のLUTを重ねて今村茶園のリール全体の色は作られています。

なので、昔のビデオのような撮って出しの感覚で映像を撮影し、白飛びや黒潰れしているところを調整して、その上にLUTを組み合わせているというだけなんです。このようにシンプルなカラーグレーディングにすることで、だいぶ時間短縮にもなっていると思いますね。



色調整の手順

サチュレーションから中間色を持ち上げる。




「ライトとカラーの補正」機能で自動カラー調整。




2種類のLUTを組み合わせて色を作る。シンプルなグレーディングにすることで時間短縮にもなっている。







Instagramリールのタイムライン解説

映像全体の構成

お茶に興味のない人に飛ばされないよう映像に興味を持ってもらうところから構成した

普通、お茶屋さんの映像であれば美味しそうに見えるお茶や高品質な茶葉を中心に見せることが多いと思います。しかし、自分に興味のない映像が流れてきたら一瞬で飛ばしてしまうのと同じように、今村茶園のリールもいきなりお茶の映像を出したところで、お茶に興味のない人には飛ばされてしまうんじゃないかと思ったんです。なので、「まずは映像に興味を持ってもらわなければいけないよね」というところから全体の構成を考えています。

まず、リールはフックとなる冒頭の2秒で興味を持ってもらえなければ見てもらえないと言われています。なので、最初で一気に感情を爆発させて、視聴者の心を惹きつけるような構成にしています。

次のパートでは、機内から見える窓の風景を機内アナウンスとともに見せ、「ここから何かが始まるぞ」という期待感を煽り、オープニングとしての役割を果たしています。

その後、物語や環境など「何があったのか?」「どのような場所なのか?」を伝えるための本編がスタートします。

本編部分が終わった時点で約40秒が経過していますが、大体の人はこのあたりで飽きてきてしまいます。なので再度爆発させるような要素を入れて再加熱させてから、ようやく商品のお茶が出てくるという構成にしています。

そして、自分たちの想いや伝えたいことを入れ、エンディングに向かう流れになっています。ここでは、おまけ要素として視聴者からスタッフや制作側の人に対して親近感を持ってもらうための画を意図的に入れています。



リール概要




本映像に使用している楽曲『I’d Rather Be With You』というタイトルに合わせたコンセプトの映像になっている。前半部分ではよりリアリティーを伝えるため、自身の視点に近くなるiPhoneでの撮影をメインとし、本編部分からの撮影は映像美を重視するためα7S IIIをメインに使用している。


タイトル:『PLEASE COME AGAIN』

公開日:2024年10月4日

再生数:12万回

リーチ数:7.4万

保存数:1,243 ※2025年1月時点



動画のコンセプト

「むしろあなたと一緒にいたい」。一夏が終わり、その思い出と、終わる瞬間の感情



制作のポイント

・リアリティーのある自分の視点はiPhone/しっかりと伝えることはα7SⅢ

・タイトルやキャプションは映画のクレジットのような表示で

・コンセプトは曲の意味や雰囲気に合わせたほうがいい



タイムラインと構成:動画編集ソフト:Final Cut Pro/動画の長さ:1分30秒







1:フック

冒頭の2秒間には、映像が目まぐるしく切り替わるフラッシュカットを入れ、さらに「ライトリーク」や「フィルムバーン」などのエフェクトをオーバーレイで追加したり、シャッター音などの効果音を入れることで、「この映像はなんなんだ?」と興味を示してもらえるような工夫をしている。「1分半の動画のダイジェストが冒頭の2秒に詰まっていると考えていただければいいのかなと思います。そうすることで、一瞬で視聴者の心を鷲掴みにして引き寄せることができます。また、フラッシュカットは、本編全体のコンセプトに合わせる必要があります」と島津さん。


約10カットが目まぐるしく切り変わるフラッシュカット。



ライトリークやフィルムバーンなどのエフェクトを加える。




2:オープニング

機内アナウンスで期待感を煽り、オープニングの役割を持たせる。




3:本編スタート

本編となる物語や環境などを伝えるためのパート。




4:再加熱

飽きさせないために火山や新幹線のカットなど、再度興味を持たせるための要素を入れ、雰囲気を大きく変えている。




5:プロダクト

後半でようやく商品のお茶が登場。あえてパッケージなどはしっかりと見せず、撮影もiPhoneで行なっている。




6:伝えること・想い

終盤は、今村さんたちの想いや伝えたいこと(誰が ・ 何を ・ どのように)を込めたショットを中心に構成。




7・8:エンディング&クレジット

エンディングとともに流れる画は、おまけ要素として視聴者からスタッフや制作側に対して親近感を持たせるための映像を入れている。




目を引くテロップデザインの作り方

上部には、今村茶園のロゴマークや鹿児島県の有機農家認証マークなどを配置し、まるで映画のポスターかのように仕上げている。



タイトルに使用するフォントは、商業利用可能なフリーフォントから、「ビンテージ」や「レトロ」などに条件を絞って検索し、イメージに合うものを選定している。1文字だけ大きくしたり、斜めにして配置するなど、何かしらの手を加えて使用することが多い。